最高裁判所第二小法廷 昭和29年(オ)737号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔要旨〕「甲株式会社代表取締役乙より御社に対する手形取引について万一不渡等の故障あるときは代表取締役乙に代り専務取締役丙が責任をもつてこれを解決し御社に絶対に御迷惑をおかけしないことを誓約します。甲株式会社専務取締役丙、丁株式会社殿」という誓約書が差し入れてある場合に、甲丁間の手形取引について生じた甲の債務につき、丙が個人保証をしたものではないと認定したとしても、これを以つて経験則に反するものということはできない。
〔説明〕丁会社はその製造にかかる品物を甲会社に売り渡していたが、甲会社代表者乙から今後の取引については、手形による決済にして貰いたい旨を申し入れたところ、丁会社から丙を甲会社の役員に就任させるなら応ずる旨の回答があつたので、乙から丙に事情を伝え、その承認をえて丙は甲会社の専務取締役に就任した。その後甲丁間に要旨にかかげた趣旨の誓約書が授受され、甲丁間の取引は手形により決済されることになつた。本件はその結果生じた未決済手形金の請求事件であつて、丁は甲会社及び丙を被告とし、丙は前記誓約書を以て甲の手形債務につき個人保証をしたものと主張した。第一審では甲会社と丙は共に敗訴したが、丙のみ控訴し、第二審は一審判決を取り消し丙に対する請求を棄却した。右誓約書は丙が個人保証をした趣旨ではない旨を、他の証拠によつて認定したものである。判旨は原判示を維持したが、これに対しては、谷村裁判官の少数意見が付されている。曰く、「原判決は誓約書につき丙の肩書が甲会社専務取締役となつているから丙は個人保証を約する書面でないと思料して捺印したものと認めるのが相当であるとしているが、この誓約書をかように解するときは甲会社に手形の不渡があつた場合同会社が責任を以て解決するということになるのであり、これは法律上当然のことで敢て誓約書を差入れる必要はないのである。これは第一審の判断のように丙が同会社のため個人保証をしたと認めてこそ初めて誓約書の意義があるのであり原審の判断は条理に適わずただ書面の形式にのみ捉われたもので経験則に反するばかりでなく、判例(大二(オ)四三四号、同三・一・二〇、大一五(オ)四二四号、同、一一・一大審院判決)にも違反するものと認められるから、この点につき更に審理を尽さしめるため原判決を破棄し原審に差戻すべきである。」と。この少数意見に引用されている判例というのは、法律新聞二六五二号九頁所載の契約ヲ解釈スルニ当リ之ヲ一ノ意義ニ解スレバ或効果ヲ生ゼシメ得ルモ、他ノ意義ニ解スレバ何等ノ効果ヲモ生ゼシムルコトヲ得ザルトキハ、他ニ特別ノ事由ナキ限リ或効果ヲ生ゼシムベキ意義ニ解スルヲ相当トスルコトハ当院判例ノ示ス所ナリというのであつて、大正三年の判例というのは同判決が引用しているものである。結局は原審の事実決定の当否を争うに帰するというのが多数意見であり、右の如き事実認定をなすことは経験則に反するというのが少数意見である。誓約書が差入れられたので手形による決済が行われるにいたつたところから見て、むしろ少数意見に聴くべきものがあるように思われる。
(三淵調査官)